絶対に不可能な姿勢で岩に張り付いていた友人

 

のっぺりした、家ほどに大きな岩を真横から見ると、その向こうには空だけがあり、まるで大絶壁のようだった。ザイルを垂らし、腰のベルトに通してポーズを取り、写真に収めようということになった。きっと、名うてのクライマーのような写真になるだろう。張ったザイルに身体を預け、ほんの1メートルも登れば、四角く切り取られたカメラのファインダーの中は、ヒマラヤかアルプスさながらだ。

俺がポーズを取り、友人がそれを撮影した。次に俺が撮影し、友人がポーズを取る。ベルトに通したザイルを引っ張り、固定されているのを友人は確認した。すでに習慣となった動きだ。

友人が笑いながら1メートルばかり登り、そこで表情を引き締め、ザイルに体重を乗せた。ファインダーの中、友人の姿は予想通り、とんでもない大絶壁に挑むクライマーだ。何枚か撮影し、友人から目を離してカメラをしまおうとした。

どすんという音と、喉の奥から搾り出すような、短く、低い友人のうめき声。落ちたな、とそれはすぐ分かった。尻餅をつき、岩を見上げる友人は、ザイルを握っている。落ちたからといって、どうこう言う高さではない。「おかしいなあ」と友人は首をかしげる。

ベルトからザイルが外れていた。確かに確認したはずだし、問題も無かったはずだ。とはいえ、何事にもミスはあるものだと、その場では納得した。山から帰り、フィルムを現像に出した。馴染みの写真屋は、うまく現像できない写真が何枚かあったことを俺に告げた。ネガを広げ、二人で確認した。

現像できなかったのは、大岩での友人の写真。友人は写っているが、ぴんと張ったザイルは写っていなかった。ザイル無しでは絶対に不可能な姿勢で、友人は岩に貼り付いていた。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket

コメントはこちら

メールアドレスは公開されません。